心房細動と脳梗塞

長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督が、発作性心房細動が原因で脳梗塞を発症したことはまだ記憶に新しいことと思います。
脳へ血液を送る動脈がつまって脳の組織が死んでしまった状態を脳梗塞といいますが、血管のつまり方には脳血栓症と脳塞栓症の二つのタイプがあります。
脳血栓症は脳の動脈が動脈硬化などでしだいに狭くなり、ついには閉塞してしまう状態であり、脳塞栓症とは心臓などにできた血液のかたまり(血栓)が血液の流れにのって脳に運ばれ、脳の動脈につまってしまう状態です。
一般に、脳塞栓症の方が脳血栓症よりも脳梗塞の範囲が広いことが多く、とくに心房細動に合併する心原性脳塞栓症は左心房などに形成された血栓による大梗塞となりやすく、生命的・機能的予後の悪いものが多いといわれています。



心房細動は年齢とともに増加し、その有病率は60歳代3%、70歳代5%、80歳代10%です。また、発作性心房細動では過労やストレスが発症の引き金になることも少なくありません。
心房細動になると心房全体が細かくふるえ、心房のまとまった収縮と弛緩がなくなるため、心房内の血液の流れに「よどみ」が生じて血栓が形成されやすくなります。
心房細動があると、心房細動がない場合に比べて脳梗塞の発症頻度は約6倍高くなることがわかっています。さらに、塞栓症の既往、リウマチ性弁膜症、心機能低下、高齢者、高血圧や糖尿病の合併症は塞栓症の危険因子とされ、ワーファリンという薬による抗凝固療法が必要になります。


ワーファリンは投与量が多すぎると出血(鼻・皮下・歯肉出血、血尿など)の危険が高くなり、少ないと血栓症の予防効果が不十分になりますので、ワーファリン治療を行う場合は定期的に血液検査を行って薬の効果を評価しながら投与量を調節する必要があります。
また、ワーファリンはビタミンKによる凝固因子の活性化を阻害して抗凝固作用を発揮しますので、ビタミンKを多く含む納豆、クロレラの摂取は原則として禁止です。緑色野菜などの食品に関しては、一日量が過量にならない程度の摂取であれば大丈夫です。


なお、次のような場合は、必ず主治医の先生に相談するようにしてください。

(1) 手術や抜歯をする場合
(2) 新しい薬(特に解熱鎮痛薬、鎮静薬)を使用したり、今まで服用していた薬を中止する場合
(3) 妊娠を希望する場合(ワーファリンには催奇形性がありますので、ワーファリン服用中の妊娠は原則禁止です。他の薬に変更する必要があります)

 最後に、ワーファリン治療を受けている方は「抗凝固療法手帳」(診断名やワーファリン使用量、治療施設名などが記入された手帳)をお持ちになっていると思います。
受診時(他院、他科を含む)はもちろんのこと、不慮の事故や病気に備えて外出時には常に携帯するように心がけてください。